矯正の説明の最初に舌癖について触れました。その時は舌癖があると反対咬合になる原因の可能性があると説明しましたが、実は舌癖があると前歯部叢生の原因にもなります。舌癖についてわからない方は、「舌癖(ぜつへき)について」と「嚥下(えんげ)について」のページを御覧ください。特にこのページは、この2つのページを読んでいる事を前提に書いています。
まず、嚥下の状態を少し整理してみます。正常の嚥下の場合(物を飲み込む時)口の中を陰圧にし、筋肉の塊である舌を口蓋にぴったりと張り付けて、食べ物を喉に送る込みます。その数無意識下で2000回を超えます。ここで大事な所は、舌は筋肉の塊である点、嚥下の際口蓋にピッタリ張り付いている点、そしてその数実に2000回以上と言う点です。舌が口蓋に張り付くわけですから、当然舌の大きさは口蓋より大きい分けです。これは当たり前だと思う方が多いと思いますが、実は当たり前でもないのです。
模式図を見ていただくと文章を読んでいただくより分かっていただいたと思います。嚥下の際に筋肉の塊の舌が口蓋を左右に押し広げる力となります。嚥下の数は無意識も含め1日2000回以上です。小さい力が持続的にかかることで上顎の骨は左右に成長させるのです。
それでは舌癖があるとどうなるのでしょうか、嚥下の際にスポットでなく歯を押すので、上の図では下側に当たります。歯を押すことはあっても上顎の骨を成長させる方向に力がかかることはありません。当然顎の成長も期待できません。結果として舌癖があると成長する機会が失われてしまいます。
今度は模型で見てもらいます。青い線が正中口蓋縫合縫合です。上顎骨が左右に成長する時はこの部分に骨がたされる事で左右に広がります。ここが成長するとちょうど真ん中にスペースが出来てきます。そのスペースが上手く働くと前歯が綺麗に並びます。
舌の働きで顎が左右に成長することを書きましたが、この成長に伴って一緒に成長する所があるのです。左の絵は頭蓋骨の絵です。あまり見慣れないと思いますが、よく見てみると、上顎の骨のすぐ上は鼻です。上顎骨が左右に広がりますと当然鼻の部分も広がります。余談ですが鼻の形は鼻骨ですから、鼻は大きくなりません。広がるのは鼻の通りです。
「鼻の通りが良い」を説明するより、「鼻の通りが悪い」を説明するほうが分かりやすいと思います。鼻の通りが悪いと、まず1番目に挙げられるのは、口で息をする習慣が出来てしまう事です。このことを口呼吸(こうこきゅう)と呼びます。口呼吸をすると、口の中が乾いてしまい色々と弊害が出てきます。乾くと唾液が口の中で循環しなくなります。そうなると、虫歯が出来やすく、歯石が付きやすく、歯に汚も付きやすくなります。
それと鼻は人体の空気清浄機です。鼻を通る間に、ホコリ等のゴミを取り除きますし、細菌等を体内に入れない防護もになっています。また空気を暖める作用や完走した空気に適度な湿度を与える作用もあります。口呼吸だと鼻を通しませんので、ホコリ等のゴミを直接喉(のど)に送り込みます。細菌も無条件で喉まで達してしまいます。すぐ喉が腫れたり、風邪をひくなら喉が荒れる人は口呼吸も原因の1つかもしれません。
空気を暖める作用が鼻にはあります。冷たい空気を直接吸うのは実はかなり体には負担が大きいようです。お医者さんのホームページなどに書いてあるのですが、冷たい空気を吸うと気管支喘息や狭心症の発作の引き金になると書いてあります。ちょっと話を大きくしてしまったようですが、体にかかる負担が結構大きいことがお分かりいただけますか。
鼻の通りが悪い事と口呼吸は必ずしもイコールでは無いのですが、叢生の人は口呼吸が多いのも事実です。特に夜寝る時に口呼吸をしている人は、自覚もあまりありません。上顎の成長が鼻にまで影響を与える事は、すぐ隣であるのに担当が歯科と耳鼻科に分かれるからか、あまり考えられていません。鼻で息を吸うのを鼻呼吸(びこきゅう)といいますが、鼻呼吸の大切さがお分かり頂けたと思います。