噛むことで、唾液やホルモンの分泌が促進されることが分かっています。それに、噛むという刺激が脳への血流を促進します。特にグライディング咀嚼は顎の筋肉以外に首の筋肉も使うため、頭をしっかり支え、正しい姿勢を作ることにも効果的です。
噛むことで、口の中に唾液が出てきます。この唾液の効果を考えるだけでも、噛むことの大切さを知ってもらえると思います。
1)細菌の発育を抑制する。(唾液には免疫物質が含まれています。)
2)細菌に抵抗する。
3)食べ物を飲み込みやすくする。
4)でんぷんを分解してくれる。
5)味わいを敏感にしてくれる。
6)口の中をなめらかにして、乾燥を防いでくれる。
7)唾液がホルモンになって脳に働きかけて
皮膚や歯、胃腸や血管などの細胞を増やしてくれる。
8)神経節や神経線維の成長を促す。
歯は、視覚、聴覚、嗅覚、触覚と同じくらい敏感な感覚器です。歯の一体何処にそんな器官があるかといえば、歯は骨の中に埋まっていますが、直接骨とはくっいていません。歯と骨との間に歯根膜という無数の繊維があり、それがセンサーとなって食べるときの砂粒でも感知しします。
歯根膜を通じて噛む刺激は脳に伝わります。歯根膜については左図を参照して下さい。
噛むこと自体が大切なことを示す話があります。名古屋大学医学部の上田実教授が、歯の数とアルツハイマー認知証に、ある程度関連性がある事を示す研究を発表されました。
「アルツハイマーは原因不明で、特効薬もない病気です。ただ、危険因子はいくつかわかってきており、歯の喪失はそのひとつになり得るのです。」
上田教授の口腔外科学教室グループが、ある老人施設で健康な老人78名、脳血管性痴呆老人39名、アルツハイマー型痴呆老人36名の歯の調査を行ったところ、アルツハイマー型痴呆老人群に、飛び抜けて歯の喪失が目立ったということです。
健康な老人群と比べ、アルツハイマー型痴呆老人群は、平均すると3分の1しか歯が残っていませんでした。そして、入れ歯の使用頼度は健康老人の2分の1。というのが大きな特徴でした。
さらに、アルツハイマー型痴呆老人群では、歯の喪失数が増えるほど、脳の萎縮程度も上昇していたとのことです。
「統計的にみると、アルツハイマー型痴呆老人群では、健康老人より20年も早く歯を喪失しています。つまり、歯の喪失と長年にわたる放置。このふたつの要素が重なるとアルツハイマー発病のリスクは、統計上3倍になります。」
歯が抜けてしまった人はアルツハイマー病にかかりやすいことが分かりました。なぜそうなのかはまだよく分かっていませんが、ひとつには、人がものを嚼むと、脳のいろいろな場所を流れる血液の量が増加すること。よく嚼んで食べると脳の神経活動が高まり脳が活性化され、ボケにくくなるのではないかと考えられています。つまり、噛むことによって歯根膜が刺激されて、それが直接脳を刺激するという効果が期待できるらしいのです。そこで、認知症の予防にはものをよく噛んで食べることが大切であると言えます。